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大分地方裁判所 昭和52年(行ウ)8号 判決

大分県別府市荘園町六組の一

原告

児玉誠

右訴訟代理人弁護士

山本草平

大分県別府市光町二二番二五号

被告

別府税務署長

佐方七郎

右指定代理人

中野昌治

水野隆昭

木村征夫

坂元克郎

太田幸助

北島凡夫

森迫孝雄

山下碩樹

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1 被告が原告に対し昭和四三年二月一六日付でした原告の昭和三九年分所得税の総所得金額を金一四一六万一八四六円とする更正処分を取消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

(予備的請求)

1 被告が原告に対し昭和四三年二月一六日付でした原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を金二四六一万一二六〇円とする更正処分のうち金九八万〇四九五円を超える部分を取消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和三九年分所得税につき、昭和四〇年三月一〇日被告に対し、総所得金額を金一四二万六五一六円の欠損とする確定申告をしたところ、被告は昭和四三年二月一六日付をもって総所得金額を金一四六一万三八七二円とする更正処分をし、同月二〇日頃その旨原告に通知した。

2  原告は、昭和四〇年分所得税につき、昭和四一年三月一〇日被告に対し、総所得金額を金九八万〇四九五円とする確定申告をしたところ、被告は昭和四三年二月一六日付をもって総所得金額を金二五五八万五〇八五円とする更正処分をし、同月二〇日頃その旨原告に通知した。

3  原告は被告に対し、昭和四三年二月二〇日付で、右各更正処分に対し異議申立てをなしたが、右申立ての日の翌日から起算して三月を経過する日までに決定がなされなかったため、同年五月二一日付で熊本国税局長に対するみなし審査請求となり、これに対し国税不服審判所長は昭和五二年四月一一日付で昭和三九年分総所得金額を金一四一六万一八四六円、昭和四〇年分総所得金額を金二四六一万一二六〇円とする裁決をなし、同月二二日右裁決書謄本を原告に送達した。

4  しかしながら被告のした右更正処分には次の点に違法がある。

(一) 原告は、昭和三九年一二月二六日、訴外玉名興産株式会社(以下訴外玉名興産という)に対し、金一〇〇〇万円を貸付けた(以下本件貸付金という)が、訴外玉名興産は、右貸付直後事実上倒産し本件貸付金は回収不能となった。したがって、本件貸付金は貸倒損金として原告の昭和三九年分事業所得に関し、必要経費に算入されるべきであるのに算入されていない。

(二) 仮に昭和三九年分事業所得に関し必要経費に算入されないとしても、昭和四〇年分事業所得に関しては必要経費に算入されるべきであるのに算入されていない。

よって、原告は被告に対し、主位的に昭和三九年分更正処分の取消しを、予備的に昭和四〇年分更正処分のうち原告の確定申告額である金九八万〇四九五円を超える総所得金額に更正した部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1ないし第3項は認める。

2  同第4項のうち、被告が原告の昭和三九年分及び昭和四〇年分の事業所得の計算上本件貸付金を必要経費に算入しないで更正処分をなしたことは認め、その余は争う。

三  被告の主張

1  原告の昭和三九年分、昭和四〇年分の確定申告額の課税標準及び税額の計算は別表一の確定申告額欄記載のとおりである。

2(1)  被告の右各年分の課税標準及び税額の計算は同表の裁決額欄記載のとおりで、原告の申告した金額と被告の主張する金額とに差異がある昭和三九年分の営業所得、不動産所得及び雑所得、昭和四〇年分の営業所得、配当所得及び不動産所得の収入金額及び必要経費は別表二のとおりである。

(2)  本件貸付金は、次の理由により、昭和三九年中及び昭和四〇年中の貸倒損金に該当しない。すなわち貸倒損金として当該年分の事業所得に関し、必要経費に算入されるためには、債務者及び保証人等の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが当該年中に明らかになった場合に限ると解すべきところ、次の各事実に照らすと、本件貸付金は、昭和三九年および昭和四〇年には、回収できないことが明らかであったということはできない。

イ 原告は、昭和四〇年四月二六日、本件貸付金につき、訴外今畑耕司、同波多野光臣、同長谷川典弘との間に連帯保証契約を締結した。

ロ 原告は、右同日、本件貸付金を担保するため、訴外玉名興産所有の福岡市岩戸町所在の土地二筆(以下岩戸町の物件という)、同市平尾新川町所在の土地二筆、家屋二棟(以下新川町の物件という)、同市天神町の土地一筆、家屋一棟(以下天神町の物件という)につき第二順位抵当権を取得し、右各抵当権の実行によるも原告が配当を受け得ないことが明らかとなったのは、岩戸町の物件については昭和四一年六月二三日、天神町の物件については昭和四一年末、新川町の物件については昭和四二年一月の各競売の日においてである。

四  被告の主張に対する認否

1  第1項の事実は認める。

2(1)  第2項(1)の事実は認める。

(2)  第2項(2)については争う。

第三証拠

一  原告

1  原告本人

2  乙号各証の成立を認める。

二  被告

乙第一ないし第一三号証

理由

一  請求原因第1ないし第3項の各事実及び被告の主張の第1項、第2項(1)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  請求の原因の第4項(被告の主張の第2項(2))について判断するに、被告が原告の昭和三九年分および昭和四〇年分の事業所得の計算上本件貸付金を必要経費に算入しないで更正処分をなしたことは当事者間に争いがない。

1  成立に争いのない乙第一号証、第三ないし第六号証、第一二号証及び原告本人尋問の結果によれば、

(一)  原告が昭和三九年一二月二五日、訴外玉名興産に金一〇〇〇万円を弁済期昭和四〇年二月二五日の約定で貸し渡したこと、

(二)  訴外玉名興産は右貸付直後事実上の倒産状態に陥ったものの、昭和三九年中には未だ銀行取引停止処分を受けるに至っていなかったこと、

(三)  右貸付当時、訴外玉名興産は前記岩戸町、新川町、天神町の物件を所有しており、各物件に既に訴外熊本相互銀行のために被担保債権金三〇〇〇万円の抵当権が設定されていたが、岩戸町の土地上の家屋については抵当権が設定されていなかったため、原告は訴外玉名興産との間に本件貸付の日に本件貸付金を担保するために締結した右家屋の売買の予約に基づいて右家屋の所有権を取得することができ、かつ右土地につき法定地上権も取得することができる状況にあったこと、

の各事実が認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右の事実に照らすと、本件貸付金が昭和三九年中に回収不能であることが明らかになったものとは認められず、本件貸付金を昭和三九年中の原告の事業所得の計算上必要経費に算入しなかった被告の更正処分は、適法というべきであり、原告の主位的請求は失当である。

2  前記乙第一号証、第三ないし第六号証、第一二号証及び原告本人尋問の結果によれば

(一)  原告は、本件貸付金を担保するため、昭和四〇年四月一二日、訴外玉名興産との間に、前記岩戸町、新川町、天神町の物件(ただし岩戸町の土地上の家屋を除く。)につき抵当権設定契約を締結し、また同日訴外波多野光臣外二名との間に連帯保証契約を締結したこと、

(二)  右不動産について昭和四〇年中には競売手続が完結しなかったこと、

(三)  前記連帯保証人三名のうち少なくとも訴外波多野光臣は、昭和四〇年において本件貸付金の弁済をなす資力を有していたこと、

の各事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右の事実に照らすと、本件貸付金が昭和四〇年中において抵当権の実行及び保証債務の履行によるも回収不能であることが明らかであったものとは認められず、本件貸付金を昭和四〇年中の原告の事業所得の計算上必要経費に算入しなかった被告の更正処分は、適法というべきであり、原告の予備的請求も失当である。

三  よって、原告の主位的請求及び予備的請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井義明 裁判官 豊永多門 裁判官 林圭介)

別表 一

1 昭和三九年分

〈省略〉

2 昭和四〇年分

〈省略〉

別表 二

1 昭和三九年分

(一) 営業所得

〈省略〉

(二) 営業収入の内訳表

〈省略〉

〈省略〉

(三)不動産所得

〈省略〉

(四) 不動産収入の内訳表

〈省略〉

(五) 雑所得

〈省略〉

(注) 右収入金額がそのまま所得である。

2 昭和四十年分

(一)営業所得

〈省略〉

〈省略〉

(二) 営業収入の内訳表

〈省略〉

〈省略〉

(三) 配当所得

〈省略〉

(注) 右収入金額がそのまま所得である。

(四) 不動産所得

〈省略〉

(五) 不動産収入の内訳表

〈省略〉

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